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2020-02-28

有名作品多数! オープンしたばかりのアーティゾン美術館で開催中の『開館記念展』に行ってきた


※アーティゾン美術館は、新型コロナウイルス感染症の感染予防・拡散防止のため、2020年3月3日(火)から3月15日(日)まで臨時休館。2日(月)及び16日(月)は従来通り休館日。

東京駅からほど近い場所にあり、1952年の開館から2015年の休館まで半世紀以上、多くの美術好きに親しまれた「ブリヂストン美術館」。そのブリヂストン美術館が2020年1月18日(土)に「アーティゾン美術館」としてリニューアルオープンしたということで、早速行ってきました!




現在開催中の展覧会、開館記念展『見えてくる光景 コレクションの現在地』

アーティゾン美術館ではリニューアルオープンを記念して、開館記念展『見えてくる光景 コレクションの現在地』が現在開催中(2020年3月31日(火)まで)。

開館記念展では、絵画から彫刻まで幅広いジャンルの美術作品を収蔵する石橋財団のコレクション約2,800点のうち、選りすぐりの206点が展示されています。通常の展覧会は100点前後のものが多いので、約200点はかなりのボリュームです!




音声ガイドが無料で利用可能

美術館の作品音声ガイドは有料の場合がほとんどですが、アーティゾン美術館の音声ガイドはなんと無料!自分のスマートフォンにアプリをダウンロードするだけです。6階の展示室前に手順が書いてあるので、誰でも簡単に音声ガイドを利用できます。

音声ガイドを利用したい方は、イヤホンもお忘れなく!

現在開催中の展覧会は音声ガイドを無料で利用できますが、今後はどうなるのか...?
これから開催される展覧会でも無料で音声ガイドが利用できたらいいですよね。




写真撮影が可能!

アーティゾン美術館では禁止マークのついている一部の作品を除いて、ほとんどの作品が撮影可能です。ただフラッシュや三脚の使用など、他の鑑賞者に迷惑がかかるような撮影は禁止!




展覧会の注目作品をちょっとご紹介!

・近現代美術の流れがわかる「Part1 アートをひろげる」

6階の展示室では「Part1 アートをひろげる」というテーマで、1870年代のマネから2000年代のスラージュまでのおよそ140年間の作品約70点が展示されています。近現代美術の歴史の流れを体感的に把握することができます!

まずはそんな6階で気になった作品を制作年の古い順にご紹介!



▲《自画像》 / エドゥアール・マネ / 1878-79年

6階の展示室に入ってまず目に入ったのが、“近代美術の父”と言われているマネの《自画像》。印象派の画家に影響を与えたマネはパリの風俗を多く描いたことで知られていますが、実は肖像画も得意だったのだそう。

油彩によるマネの自画像は世界に2点しかないとても貴重な作品で、アーティゾン美術館に収蔵されているのはそのうちの1つ。手をポケットに入れて堂々としたマネの姿からは、画家としての力強さや自負心が感じられます。

▲《黄昏、ヴェネツィア》 / クロード・モネ / 1908年頃

日本でも人気の画家・モネが描いた、ヴェネツィアの風景《黄昏、ヴェネツィア》。当時67歳のモネが初めてヴェネツィアを訪れたときに、その美しさに感銘を受けて描いた作品です。

燃えるような夕焼けと夜の帳が下りる直前の空とのコントラストがなんとも美しい...!夕日に照らされて影になっているサン・ジョルジョ・マッジョーレ教会は、細部を省略したシルエットで描かれています。

▲《黒扇》 / 藤島武二 / 1908-09年

日本における洋画壇を長らく牽引した画家・藤島武二がヨーロッパ留学の際に描いた《黒扇》。現地のイタリア人女性をモデルとしたこの作品は、日本人画家が描いたとは思えないほど西洋的な絵画でびっくり!

今では国の重要文化財に指定されている《黒扇》ですが、描かれた直後から世間で有名になったわけではなく、藤島の最晩年までずっとアトリエの奥に誰の目にも触れずにしまわれていたのだそう...。

▲《自らが輝く》 / ヴァシリー・カンディンスキー / 1924年

20世紀前半になると印象派の時代が徐々に終わりを迎え、抽象絵画が誕生・発展していきました。その発展に大きく寄与したカンディンスキーの作品《自らが輝く》。

この作品は、大小の円や四角、曲線などさまざまな形や線が重なり合い、すごい躍動感!無造作に配置されているようで、黒い線が絵画全体を引き締めていたりするなど、よく見るとシステマティックな作品だということがわかります。

▲《10番街》 / ジョルジュ・マチュー / 1957年

現代アートのコーナーにはエネルギッシュでかなり迫力のある作品、ジョルジュ・マチューの《10番街》がありました。目が痛くなるほど鮮明な赤で塗られたキャンバスの上に、素早い筆さばきで描かれたであろう作品。ほんの少しですが日本の書道に通じるところがあるような気がしました。

写真では伝わりづらいですが、絵画下部の金色や白の部分は、絵の具をチューブからそのままキャンバスに直接塗ったようで、横から作品を見ると立体的になっていました。

▲《07.06.85》 / ザオ・ウーキー / 1985年

北京生まれのザオ・ウーキーが描いた《07.06.85》。タイトルは作品が完成した日付なんだそう。東洋的な世界観や宇宙観を西洋画の手法を用いて描いたこの作品は、中国とパリで絵画を学んだザオ・ウーキーだからこその1枚。

一見簡素な絵画のように見えますが1箇所として同じ色の部分はなく、見れば見るほど思わず引き込まれる不思議な作品でした。





・7つのテーマでアートを深掘り!「Part2 アートをさぐる」

「Part2 アートをさぐる」では古今東西の美術を7つのテーマに分けて深く掘り下げます。Part1では水平的に、Part2では垂直的に、2つの異なる視点からアートを多角的に鑑賞することでアートの核心に迫ります!


1.装飾

1つ目のテーマは「装飾」。アートというと絵画や彫刻をイメージしがちですが、身近にある器物や生活空間を彩る装飾もアートの一部だということを再認識させられるテーマです!

特に器物に関しては、紀元前から現代に至るまで機能的にはなんの意味もないけれど、きらびやかな装飾が施されているものが多くありますよね。



2.古典

2つ目のテーマは「古典」。どの時代でも誰でも納得できる“普遍的な美”に挑戦したギリシア・ローマ時代。その時代に生まれた古典は受け継がれていく美術の規範的存在となり、今なお美術に多大な影響を与えています。

▲《女の顔》 / パブロ・ピカソ / 1923年

まるでギリシャ彫刻が額縁に収められているような《女の顔》は、ピカソの新古典主義時代の作品。ピカソの古典へのリスペクトが垣間見れる絵画です。ピカソは《女の顔》というタイトルの作品をいくつも描いており、この作品もそのうちのひとつ。彫りの深い顔と物憂げな表情が脳裏に残りました。



3.原始

3つ目のテーマは「原始」。美術には文字では書き表せない、動物としての人間が持つ本能的な衝動が噴出した作品がたびたび見られます。自分の奥底にある気持ちを代弁してくれたかのように感じる荒々しい表現に、時として惹きつけられます。

▲《ポン=タヴェン付近の風景》 / ポール・ゴーガン / 1888年

多くの風景画家たちが暮らした「ポン=タヴェン」は、アヴァン川が流れる自然豊かなフランス西部の町。《ポン=タヴェン付近の風景》はそんなポン=タヴェンの風景をゴーガンが描いた作品です。人の誕生より前から存在する自然への憧憬や畏怖の念が感じられます。



4.異界

4つ目のテーマは「異界」。目の前の現実世界にはない、想像上のものや時空を超越するものを表現するのも美術の魅力!しかし、それらは決して見る者に優しく語りかけてくるものや心温まるものばかりではなく、恐怖や不安、不気味さが混じり合う作品もあります。

▲《ヴァンスの新月》 / マルク・シャガール / 1955-56年

青い女性と赤い男性が抱き合っていたり、花束を持った人が飛んでいたり、三日月がろうそくを持っていたりと、とにかく奇々怪々な絵画《ヴァンスの新月》。上手な絵だなぁとは思いませんでしたが、怖いもの見たさに目を離せなくなる不思議な魅力のある作品でした。

▲《素朴な月夜》 / 古賀春江 / 1929年

だまし絵的にテーブルの上に載る白い家、こちらを凝視する黒い犬、全身水玉模様の気味の悪い少女など、1枚の絵の中に奇妙なものがたくさん詰め込まれた情報量たっぷりの《素朴な月夜》。当時フランスで誕生したシュールレアリスムの雰囲気も感じられます。



5.聖俗

5つ目のテーマは「聖俗」。人は神など人間を超越した聖なるものを崇拝し、身近に定着させたいという願望がある反面、俗的なものに惹きつけられる性質も持っています。人間とは切り離せない「聖」と「俗」が表現されるのも美術の面白いところです。

▲《洛中洛外図屏風》 / 江戸時代中期 17世紀

京の市街と郊外の景観や風俗が俯瞰的に描かれている《洛中洛外図屏風》。教科書や資料集などでは見たことがあったのですが、ここまで近づいて見たのは初めてでした。よく見ると当時の京の様子がかなり細かく描かれていて長い時間見入ってしまいました。

洛中洛外図屏風にはお寺の名前なども書いてあるのですが、字が達筆すぎて二条城以外はほとんどわからず...。



6.記録

6つ目のテーマは「記録」。さまざまなことを記録する上で言語は重要なツールのひとつですが、記録する方法として美術があることも忘れてはいけません!当時の風景や社会の記録、作者自身の刻々と変化する内面世界の記録が作品には多く描かれています。

▲《シャンゼリゼ大通り》 / ケース・ヴァン・ドンゲン / 1924-25年

パリの中心部・シャンゼリゼ通りで、アール・デコ調の最新ファッションに身を包む当時のファッショナブルなパリジェンヌと街の様子を描いた《シャンゼリゼ大通り》。顔はあえて細部まで描かずに赤い唇だけで表現されており、これがおしゃれなパリの雰囲気と見事にマッチしています。

▲《街道(銀座風景)》 / 岸田劉生 / 1911年頃

日露戦争終結からおよそ5年後、1911年の東京・銀座の様子を描いた《街道(銀座風景)》。具体的な建物などはわかりませんが、当時から銀座は洗練された雰囲気だったということは伝わってきますね。

さまざまな画家から影響を受けた岸田劉生。この作品はゴッホ風の仕上がりになっています。同じ記録のコーナーにゴッホの《モンマルトルの風車》という作品があるので、ぜひ比べてみてください。



7.幸福

7つ目のテーマは「幸福」。過去の美術作品のひとつひとつが、人の心や生活を豊かに彩っています。

▲《娘に読み聞かせるオーガスタ》 / メアリー・カサット / 1910年

日が降り注ぐ中、自然に囲まれたベンチに座りながら母親が娘に本を読み聞かせている《娘に読み聞かせるオーガスタ》。娘は本の読み聞かせに飽きて、どこか退屈そうで不機嫌にも見えます。母親が着ている緑のドレスと娘が着ているピンクのドレスの対比も美しい。




アーティゾン美術館で開催中の『見えてくる光景 コレクションの現在地』は、美術好きなら間違いなくテンションが上がる贅沢なラインナップでした。今まで興味がなかった人でも美術が好きになるきっかけになるかも!

ちなみにアーティゾン美術館は日時指定入場制なので、訪れる日時が決まったらインターネットで事前にチケットを購入しておきましょう!当日チケットはウェブ予約チケットが完売していない場合のみ美術館窓口でも購入することができます。




このしおりのライター

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