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2021-03-21

【前編】懐かしさを求めて。三河湾の離島「佐久島」へ一人自転車旅

忘れられない思い出があった。
確かあれは、小学校4年〜6年生の夏だっただろう。

その当時、子供だった私から見れば、実家から遠く離れた離島・佐久島は未知の場所。そんな島へ毎年、家族と祖父母と遊びに行っていた。

かれこれ10年以上も昔の話で、断片的な記憶しかなかったけれど、その記憶は、私が「佐久島を再訪しよう」と思わせるほど、色鮮やかなものばかりだった。


愛知県の内海「三河湾」。クワガタの頭のような、知多半島と渥美半島に囲われた海。

ここには日間賀島と篠島、佐久島の三つの大きな島が浮かんでいるが、どういう訳か毎年「佐久島」へ行っていた。だからこそ今は亡き祖父母との大事な思い出が詰まっている。


一色港から佐久島へ向かう高速船。当時、船に酔いやすくて、少し苦手だったのを覚えているが、改めて乗ってみて納得。相当揺れる揺れる。

いやいや、とんでもなく揺れる!(笑)そして甲板にいると、さながら台風に襲われているように波風が当たる。私は沖に出る直前に、中へ入ったからセーフだ!危なかった...。

「佐久島」には、東西に一つずつ港があって、その間は2kmちょっと。その数字から「相当小さい島なんじゃないか!?」と思うけれど、案外そうでもない。

「島内を冒険できる程度には広い。」


佐久島西港で高速船を降りて、さっそく自転車を走らせる。私はマイ自転車を持参したが、港近くにはレンタサイクルも。島旅の必須ツールだ。
※自転車は輪行(自転車の前後輪を外し、専用の袋に入れること)すれば無料。

かつて行き来していたのは東港のため、懐かしさはまだ込み上げないが、未知の場所なので、楽しみではある。


走り出すと、三河湾を見渡せるひっそりとした海岸の道が続いていた。
波の音と磯の香りを感じながら、海と空の境界に心奪われる。

先ほどまでフェリーにはたくさんの観光客が乗っていたけれど、ここには人っ子一人いない。島の穏やかな時間を独り占めしているようで、このシチュエーションは嬉しい!


ん?何やら造形物を見つけたぞ!

実は佐久島、近年流行している“島+アート”の先駆けの島でもあって、島の至る所に目を引くアートが点在する。これは「北のリボン」という作品。

島の最北部にあって、リボンの頂上からは蒲郡方面を望む良い眺め。まるで自分の秘密基地を見つけたようで、ほっこりしていた。

そのまま進路は東へ取る。


道の脇にある侵食された岩盤もアートみたいで見入ってしまう。


そして島の北西部に至った時、角度を変えて広がる海に思わず立ち止まる!

太陽が青い海に降り注ぎ、その照り返しがとめどなく輝いていた。「あぁ、本当に美しい。」島を訪れると、日常溜まってきたものがすっと落ちていく気がする。


ちなみにも、ここにもアートがある。その名も「星を想う場所」。

宇宙に流れているものを重力で引きつけて、星が形成されている事実に着目!
海を宇宙、様々なものが漂着して、打ち上げられる浜を一つの星と見立てて、表現している作品だ。


豊かな思考のアートで、何より外観が美しい。島の最果てと言うべき場所にある点も、神秘的な雰囲気を高めていた。


この先からは、島のあらゆるところに張り巡らされている林道を進む!
もちろんオンロードではない。

純粋に走ることを楽しむ人にとっては億劫かもしれないが、島旅を楽しむ意味で、私はむしろ、こう言うパターンの方が好きだったりする。

そこから、しばらく独特な植生の道を走ると、島の東側の集落へと出てきた。


ここで思わず、「うわぁ〜」と懐かしくなる。かつて3度ともお世話になった民宿「ちどり」。

当時、ナルトが流行っていて、サスケの必殺技「千鳥」を真似していた自分がいたっけ。若い夫婦に連れられた子供達と、当時の自分が重なる。


毎年海水浴をした場所も覚えていた。
海の生き物を探して遊びまわり、海からお腹をすかして出てきたこと。浮き輪から落ちた思い出、運動後のご飯の美味しさ。

今は亡き祖父母との、かけがえのない思い出がよみがえってくる。
今私がこうやって「佐久島」を再訪することを、あの頃の自分は想像もしていないだろう。


そして島の東端へと向かう。ちょっとした丘を上ると、素朴な島の景色に、ふと癒される。
島旅の良さはこういうところ。

そして辿り着いた先にも、面白そうなアートがある。


「佐久島の秘密基地/アポロ」。佐久島のアートは空間ごと味わうようなインスタレーション作品が多い。

木々に囲まれた道の先に、海をバックにしたロケーションが最高だ。
ここは極上の癒しスポット...!!


二階の小窓からは三河湾を一望でき、木々が風を凌いでくれて、少し肌寒い12月上旬でも快適だった。その居心地の良さから、思わずうたた寝をしてしまったほど。

ただひたすらに、静かな波の音が耳に伝わってくる。何とも心地よくって、ずっと横になっていたくなる。


自転車旅って走り回っているイメージがあるけれど、たまには「こういう時間もいいなぁ〜」なんて思ったり。結局一時間近く過ごしてしまった。

マイペースに楽しみ、五感をつかって全身で感じる。そこには懐かしさも、新しさも。島は訪れた人を優しく迎えてくれる。そんな懐の広さが魅力。自転車は、そんな島の包容力を余すところなく伝えてくれる。


(後半へ続く)



このしおりのライター

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